アートを通して見えてくる、富士市の魅力
~アーティストと交流できる場を吉原商店街に~

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アーティストが滞在して作品を制作する拠点や活動を支援する仕組み、アーティスト・イン・レジデンス(通称AIR)をつくることをひとつの目的として、2022年7月に富士市へ移住された瀧瀬彩恵さん。今回は、富士市の吉原商店街の「MARUICHI BLDG.1962」(マルイチビル)を拠点に活動されている瀧瀬さんに、富士市へ移住された経緯や富士市の魅力についてお話を聞きました。

編集者/ライター/翻訳者 瀧瀬彩恵さん

東京ではない場所に、アーティストと地域の方が交流できる場をつくりたい

はじめからアーティスト・イン・レジデンスを目指していたわけではないんです。もともとは執筆や編集などの仕事で、アーティストの作品について伝えるための文章を作成したり、翻訳したりしてアートと関わっていました。そんな中、アーティストが、日常においてアートとまったく関わりがない方々と交流することで、制作のヒントにしたり、作品の展示や発表をしたりすることができる場所と機会を作りたいという思いが芽生えました。

東京ではない場所で作りたいと考えるようになったのは、コロナ禍の不安定な時期です。文化芸術は真っ先に、不要不急と言われてしまいました。不安定な時期を過ごしている間に、行政やインフラはもちろん、文化芸術も首都圏に集約されているのはどうなんだろうと考えるようになって。
そもそも首都圏だけで文化芸術関連の仕事に関わっていても、一部の詳しい人にしか伝えられないことが多く、限界を感じていました。「文化芸術を底上げする」と言うなら、人生で一度も美術館に行ったことがないような人に伝えられなくちゃ、意味がないんじゃないかなと。

吉原商店街にいる人と場所が、なんだか心地良い

「じゃあどこに行こう?」と考えたとき、たまたま仕事でマルイチビルの運営マネージャーで自身も建物内で飲食店を営む田村逸兵さんと出会いました。マルイチビルは、富士市の吉原商店街にあった廃墟ビルを低予算でセンス良くリノベーションして復活させた建物で、「そんなビルが商店街にある街って絶対面白い」と思ったんです。

富士市・吉原商店街「MARUICHI BLDG.1962」の下で(おすすめの休憩スポット)

はじめて吉原商店街に行ったのは、まだコロナ禍で商店街のお店も閉まっていてシャッターが下りているような時期でした。でも「なんか面白い。ただのさびれた商店街じゃない」と感じて。街にいる人と場所の印象がとても良かったんです。

加えて、田村さんが富士市にアーティストインレジデンスがあればいいと考えている、と聞いたときに私がやりたいことと重なって、一緒にやりませんかという話になりました。

東京と富士市の二拠点で行き来することも検討しましたが、パソコン1台があれば仕事は遠隔でできるので、今後のことを考えると「住んでしまった方が早い」と富士市に移住しようと決めました。
今は、マルイチビルのシェアオフィスを仕事場にしています。私のように遠隔での仕事もポジティブにできる方は、首都圏に多いと思います。

なにが吉原商店街の面白さなのか、答え合わせをしている

富士市に来てからは活動名義を「吉原中央カルチャーセンター」とし、吉原商店街に県外アーティストを招いて制作や地元の方々と交流できる各種企画、地元の方の活動も発信する企画を行いながら、滞在制作の仕組みや拠点づくりの準備をしています。イベントを通して街や街の人を知ることができていて、なぜ直感で吉原商店街が面白いと思ったのか、今その答え合わせをしている感じです。

例えば、東京在住のアーティスト・Tinaさんを呼んで吉原商店街に滞在してもらい、街の人の「似顔絵」をライブドローイングするというイベントを開催しました。
Tinaさんは、音や文字に色を感じる感覚を持っていて、人の名前の文字や声を見聞きして「名前の似顔絵」を描かれるアーティストです。とても不思議なアートなんですが、商店街の方々が「とりあえず面白そうだからやってみたい」と参加してくださったのを見て、自分とは異なる背景や感覚を持った人をそのまま受け入れてくれる懐の広さがあるなぁと感じました。

他にもアーティストのトークショーも開催したんですが、本人が作品について伝える機会があって、地域の方と意見交換することも、文化芸術の底上げにつながる一つの方法ではないかと思っています。

アートを通して見えてくる富士市の魅力

アーティストは、みんなが気付いていないことを取りあげられる力がある人たちだと思うんです。たぶん多くの人が地元だからこそ気付かない魅力ってありますよね。富士市にはそういう気付かれていない魅力のようなものがすごく多くて、それが富士の良さでもあると思います。みんなが知っている、これが魅力ですっていうところじゃない部分が面白いというか。

吉原商店街にいる方も、本当に面白い方がたくさんいらっしゃるんです。すごく自然体で自分の好きなことに素直で、かといってがつがつしてない。みんなが適材適所にいて、それぞれやりたいことをやっていればいいんだ、みたいな雰囲気があると感じます。そういう空気の流れ方が、富士市の魅力であり、アーティストと地域の皆さんが交流する場所として相性がいいのかもしれません。

これからも富士市で文化芸術に関連したさまざまな活動を続けていきますので、是非注目していただけたらと思います。
https://www.yccc-fuji.city/