【コラム(第1回)】富士市で進めるDX・テレワーク
常葉大学 経営学部経営学科 小豆川 裕子教授

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【コラム】「富士市で進めるDX・テレワーク」第1回目は、富士市がなぜ、DX・テレワークの普及推進を進めるのか、その背景と、目指す方向性について、解説します。

新型コロナウイルス感染拡大から3年。すっかり「テレワーク」が一般用語となりました。
感染リスクの回避のため、多くの企業はやむなくテレワークに着手しましたが、ここにきて原則出社に戻す企業、コロナ禍前から働き方改革を行い、コロナ禍で一気にテレワークを定着させ、次なる展開としてテレワークを基本の働き方とする企業、さらに従業員の居住地を全国に拡大させて、自由に働き方を選べる企業も出てきました。

富士市は小長井市長が2020年8月、「デジタル変革宣言」を発出し、そのなかで「テレワーク先進都市」を実現するために2021年3月、「テレワーク推進ロードマップ」を作成しました。目標値を設定し、市内事業所のテレワーク導入促進や首都圏からのテレワークを実施する企業の誘致、テレワークの受け入れ等につなげるプロセスを提示しています。現在さまざま施策の進捗状況をモニタリングしています。

富士市テレワーク推進ロードマップ

テレワークは、「ICTを活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」です。
自宅を就業場所とする「在宅勤務」だけでなく、新幹線や空港などの移動中、カフェなどを就業場所とする「モバイルワーク」、所属するオフィス以外の他のオフィス、コワーキングスペース等を就業場所とする「サテライトオフィス勤務」の総称がテレワークです。

富士市には、さまざまなコワーキングスペースがあります。
個人の仕事を行うだけでなく、ビジネスのサポートやコミュニティの運営、イベント開催やビジネス交流会、ペットと一緒に仕事ができる空間など、特徴ある取組みを行っています。

私が富士市に移住する以前に勤務していた企業では、テレワーク制度の導入とオフィス改革を行い、2社のサテライト・シェアオフィスサービスと契約しました。働く場所の選択肢があれば有効に時間を使うことができ、集中と開放で、エンゲージメントや満足度がアップします。

富士市内コワーキングスペース

テレワークの実践は、個人、企業、社会にとって様々な効果があります。労働力減少、都市と地方の格差を是正する解決策として、テレワークは「働き方改革」「地方創生」を牽引し、個人にとってはワーク・ライフ・バランス、企業にとってはBCP(事業継続)、生産性向上、優秀な人材の維持・確保等を実現する手段として期待されています。

ICTを活用し時間と場所を有効に活用できるため、生産性が上がりますし、ライフステージの様々な変化、たとえば出産・育児・介護など、制約条件ができた場合、また今回の新型コロナウイルス等パンデミックやインフルエンザ、自然災害等でも、テレワークを活用すれば、安心・安全を確保しながら平常時と同様、業務を継続することができます。

現在、テレワーク普及推進の課題は、地方と中小企業と言われています。導入メリットや活用するイメージがなかなか持てないのが大きな理由ですが、特に中小企業は、人材の維持・確保に有効です。導入に成功した企業は、企業イメージがアップし、採用面で選ばれる企業として、注目されています。

図表1

図表1は、持続可能な個人・企業・社会の実現に向けた、テレワークを支える環境整備を示しています。
①ICT環境の整備、②組織風土の革新、③業務・コミュニケーションの革新、④労務管理制度・ルールの整備、そして⑤オフィスの改革のセットで進めると効果的です。

これからも感染防止策等は、働く環境の必須条件として組み込まれていくでしょう。あわせて個人は、リモート環境でも成果が出せるよう、自律・自己管理力を持ち、主体性の確立が求められます。そしてチーム・ビルディングも重要です。離れていても他者を配慮し、相互に支援する組織風土の醸成が求められます。

テレワークのメリットは、通勤時間がなくなり、自由な時間・自己啓発の時間が生まれています。テレワークができる頻度が高くなるにつれ、住む場所の選択肢が拡がり、地方への移住を考えたり、Uターンの時期を早めようとする人も出はじめています。テレワークの普及によって、副業・兼業、暮らし・労働の場所の選択肢はますます拡がっていくものと考えられます。

2月に発表されたふるさと回帰支援センターの調査によると、移住相談件数は、2年連続で過去最多となったそうです。そして、静岡県が3年連続「移住希望地ランキング」でトップとなり、全年代で第1位を占めたそうです。
静岡県は、市町等と連携して、ハイブリッドによる移住フェアやセミナー、センター相談員と自治体担当者による窓口相談会を数多く開催した施策の効果の結果といわれています。
今後は一層、大都市圏へのアクセスのしやすさ、温暖な気候を強みに、地域資源の再発見とブランディングの再構築が求められているといえるでしょう。
第2回は、富士市のDX・テレワークの課題と解決策について、解説します。