【コラム(第3回)】富士市で進めるDX・テレワーク
常葉大学 経営学部経営学科 小豆川 裕子教授
【コラム】「富士市で進めるDX・テレワーク」第3回目では、富士市におけるワーケーションと移住促進について、解説します。
注目されるワーケーション
富士市テレワークロードマップには、一般企業・ワーカーのテレワークの導入促進に加え、コワーキングスペースなどの拠点整備や、首都圏企業、ワーカーのワーケーション、モニターツアーを通じた企業誘致、移住促進が含まれています。
ワーケーション※1は2017年頃より国内で動きがみられましたが、脚光を浴びたのは2020年です。政府の観光戦略実行推進会議において、「新しい旅行スタイル」として環境整備が提案されたことがきっかけです。岸田政権のデジタル田園都市国家構想では、地方創生テレワークの一環に位置づけられ、民間企業と連携しながらコワーキングスペース等の施設整備や企業・個人のモニターツアーの補助事業等に積極的に取り組む自治体がみられるようになりました。
※1 ワーケーション:ワーク(仕事)とバケーション(休暇)の造語。ワーケーション自治体協議会(2019)によると、「テレワークを活用し、普段の職場から離れ、リゾート地等の地域で普段の仕事を継続しつつ、その地域ならではの活動を行うことである」(ワーケーション自治体協議会、2019)
ワーケーションの分類
観光庁ではワーケーションを、休暇を主体とするか仕事を主体とするかによって、大きく「休暇型」と「業務型」の2つに分類しています(図1)
1)「休暇型」ワーケーション
「休暇型」は個人単位が基本で、あくまで休暇を目的としています。休暇中に出席が必要な会議はリモートで行うなど、休暇をまるごとキャンセルせずに仕事ができるメリットがあり、有給休暇の促進にもつながります。「福利厚生型」ともいわれ、日本におけるワーケーション導入のきっかけとなった類型です。
2)「業務型」ワーケーション
「業務型」は仕事を主とするもので、その前後に観光等で休暇を楽しむ形態です。企業や受け入れ地域の目的やニーズに合わせて、「地域課題解決型」「合宿型」「サテライトオフィス型」の3つに分類されます。
ブレジャーはBusiness(ビジネス)とLeisure(レジャー)を組み合わせた造語です。出張等の機会を利用し、出張先等仕事の前後に観光を行うなどして余暇を楽しむもので、広義のワーケーションに含まれます。
一方、内閣府/内閣官房では「地方創生テレワーク」を推進しています。「地方創生テレワーク」は、会社を辞めずに地方に移り住む「転職なき移住」、東京圏企業による「地方サテライトオフィスの設置」などがあります。ワーケーションは「関係人口の増加」に資する施策に位置づけられ、「都市部から地方への人の流れ」を加速させ、「多様な形で地方の活性化への貢献」が期待されています。
ワーケーションの「業務型」の3類型に対し、全国の自治体では、企業・ワーカーの誘致策に積極的です。
「地域課題解決型」は、一定期間滞在し、地域の自治体、企業、大学と交流することにより、地域の課題解決に取組むものです。SDGsを企業戦略として会社全体で実践することや、越境学習※2の意義を理解し、人材育成や組織開発に取組む企業が積極的です。
※2 越境学習
一般的には、ビジネスパーソンが会社(あるいは職場)以外の場に身を置くことによる学び全般を表す。物理的な場所の移動だけでなく、個人の心理(認知)に基づくものであり、個人にとってのホームとアウェイの間にある境界を越えることと定義する(石山恒貴/伊達洋駆「越境学習入門」、2022)。
「合宿型」は、リゾート地など通常の業務環境と異なるところで会議や研修等を行うものです。長期化するコロナ禍で、従業員間、上司と部下のコミュニケーションが不足し、チームの一体感や組織の求心力の低下を課題視する企業が多くみられます。オフィスを離れ、豊かな自然環境下でチームビルディングや新規事業のアイデア創出等の目的で活用されています。
「サテライトオフィス型」は自社や自社グループが設置するサテライトオフィスや、自治体や地域の民間事業者が設置したシェアオフィスやワーケーションサイトを活用するものです。
富士市では、コワーキングスペース、エスプラット富士スパークと連携し、富士山のふもとで研修等を兼ねたワーケーションを実施しています。
コニカミノルタジャパン株式会社は4日間富士市に滞在し、仕事をしながら地域関係者との交流を行いました。期間中には、地域貢献活動の一環として、田子の浦港でゴミ清掃を行いました。
東海道新幹線、東海道本線、東名高速道路、国道1号などの主要な交通インフラが横断し、新幹線駅、高速ICがある富士市。東京駅まで約60分と首都圏へのアクセスの良さ、温暖な気候と富士山と駿河湾を一望できる自然。令和3年度の静岡県への移住者ランキングにおいて、富士市は三島市に次いで2位となりました。
従来、日本の旅行スタイルは、特定の時期に一斉に休暇を取得し、宿泊日数が短いという特徴がありました。ワーケーションの推進は、観光需要の平準化と拡大、さらに関連産業の活性化が期待されます。
地域にとっては、域外の企業やワーカーが一定期間滞在することで、交流人口・関係人口の増加となり、継続的な関係づくりは、企業の移転やワーカーの移住促進につながっていく可能性があります。
富士市でも今まで多くの取組みをしてきましたが、より関係人口を増やし積極的に富士市との関わりを増やしていくことが課題となっていきます。